七丈小屋
15時10分頃に五合目小屋跡に到着。
<余力があとどれだけあるのだろう。>
これでもか、というくらいに梯子や鎖場が登場するではないか!
足場を気にしながら片手で鎖を掴み、もう片手で岩を掴む。
「えい!」と、ほぼ懸垂運動をするかのように岸壁をよじ登る。
一つ鎖場をクリアしたかと思えば、次はほぼ垂直にかかる長い梯子。
しばし足を止め、息を整えて、気力を奮い立たせてから登る。
そうしないと注意力散漫になって転落してしまうかと思ったからだ。
疲れた体に追撃の手は休むことなく襲い掛かる。
と言えば大げさかも知れないが、登っている時はそう感じたのだ。
<一体どうやって登るのだ?>
崖を登ってようやく歩く。
その先に小屋らしき建物が!
16時40分。七丈小屋に到着。
小屋の中に入って受付を・・・薄暗い室内に先客が3名ほどいた。
管理人さんが台帳を持ってきて受付を済ませる。
登山道入口にも掲示があったが、ヘリコプターの荷揚げがないようで食事提供なし。
素泊まり(寝具つき)で4500円。
僕はこれまでに泊まった山小屋は、八ヶ岳と北アルプスだけで、南アルプスでは初めてだ。
一昨年泊まった燕山荘は、まるでホテルのような規模に対して、ここは・・・。
静かである。
室内はストーブが焚かれていて暖かく、ヤカンのお湯は自由に使っても良いようだ。
外には水場もある。しかも、衛生検査に合格した天然水だ。
<山に来て、水がタダで手に入るとは・・・>
北アルプスとの違いに驚いた。
先客のおじさんたちと話をしながら、僕は持ってきたアルファ米を炊いて夕食に。
アルファ米とは下調理がなされた米で、すぐに炊き上がるという代物。
登山では非常に重宝する。
ここまでの登りでバテた体に食事は大切なエネルギー補給なのだ。
食事を楽しむということよりも、むしろ明日のための栄養補給といった意味合いが強い。
食後は管理人さんがくれたドリップ式コーヒーを飲んで、登山者たちと語らいのひとときを過ごした。
管理人さんは朴訥な印象で、ややとっつきにくい感があったがキノコに詳しいようで、
マツタケや食べられないキノコなどの話をしてくれた。
登山道の草刈や梯子、鎖の付け替えなどは管理人さんがやっているらしい。
30年後も使える設備を考えているようで、確かに道中の梯子や鎖はしっかりしているものだった。
小屋自体も質素ながら清潔で、トイレも綺麗だった。
この日の宿泊者の中で僕が最年少だった。
登山者は中高年が多いが、今年80歳になるという人がいたことには驚いた。
<80歳であの登りを上がってきたのか!>
ここまで登ってきてフラフラになっている自分が情けなく思われた。
黒戸尾根を登ってきて、満足な気分に浸っていた僕にとって
冷水をかけられたような心境だった。
僕がここまで登ってこれたのは僕だけの力じゃないんだ。
黒戸尾根ルートを拓いた古の修験者たち。
登山道を整備している管理人さんたち。
切り株に「あと15分」と書いて僕に元気を与えてくれた人。
山小屋に同泊の人たち。
僕が無事に帰って来るのを待っていてくれる人たち・・・。
いろいろな人たちの思いに支えられて登っているのだ。
管理人さんが言っていた。
登山道を歩いて頂上を目指す。それはそれでいい。
しかし、登山道なんていうのは山のごく一部に過ぎない。
山の楽しさはそれ以外のところにもたくさんあるのだ。
僕はどれだけ山を楽しんでいるのだろうか・・・。
頂上に立ったときの達成感、素晴らしい展望、下山後の温泉。
それも否定はできないが、僕は管理人さんの言う「楽しさ」をまだ知らないように思った。
「外はガスが晴れてきれいに星が見えますよ」
同泊の人の声に、僕も外へ出てみた。
夜空を見上げると、数え切れないほどの星が瞬いていた。
天の川が僕を見下ろしている。
いつまでもこうして眺めていたい夜空だった。
山小屋の夜は早い。
20時。明日に向かって眠りに着いた。
つづく


おひさしぶりです(^.^)登山道でこんなに凄いのに、道から外れたら生きて帰れるのか・・・・・岩場に鎖が垂れてるだけなんて・・・・何かのバツゲームにしか思えない(T.T)