五合目まで
刃渡りを無事に通過した頃から山中にはガスがかかってきた。時刻は14時頃。
午後になるとガスがかかりやすいと調べた中に書いてあったのを思い出した。
そんな霧の先に梯子のようなものが見えてきた。
まさに梯子である。
落ちたら洒落にならないので、慎重に登って行く。
急登のあとの梯子や鎖場は体にこたえる。
但し、この程度のものはほんの序章に過ぎなかった。
梯子や鎖場を通過して、刀利天狗という社に着いたのが14時20分頃。
こんな山中に社を建てるとは昔の人は大変だったろうと思った。
それも駒ケ岳に懸ける信仰心によるものだろう。
と同時に、梯子や鎖がしっかりと付けられていることも驚きだった。
僕のイメージでは黒戸尾根はかつてのメインルートで、今や登る人も少ないルート。
だから、寂れた道なのではないかと思っていた。
ところが、登山道はきちんと整備されており、熊笹なども刈ってあった。
登山道で草刈機を見かけたくらいだ。
道に迷う心配もなく、廃道寸前だと思っていた僕のイメージは一転した。
しかし、登る人は見かけない。
霧の中を進んでいくと、まもなく五合目のはずだ。
しかし、登っても登っても着かない。
樹林帯の中をひたすら登る。
気分的にもうんざりとしてくる。
<何でこんなきつい思いをして登っているんだ?>
<これも一種の修行だ。>
僕の中で自問自答が繰り返される。
誰に登れと言われたわけでもなく、登ったからと言って何かもらえるわけでもない。
登ったという自己満足に浸るだけの話である。
辛いこと、苦しいことはたくさんある。
それらを上手くかわして、楽に生きていくこともいい。
しかし、時には苦しい道、厳しい道も、困難を乗り越えるためには必要なことだろう。
だから僕はこうして登っているんだ。
道の脇に小さな切り株を見つけた。
どうやら五合目小屋跡まであと15分という意味だろう。
ほんの小さなことだが、元気百倍で足が前に出る。
五合目小屋跡にたどり着いたのは15時10分頃。
あたりは霧に包まれて、休んでいると寒くなってくる。
かつて甲斐駒ケ岳へのメインルートであった頃は、登山者も多くて経営も成り立ったのだろう。
しかし、南アルプス林道が開通し、北沢峠からのルートがメインとなってから変わってしまったのだろう。
昔はここでどんな人たちが山旅を語り合ったのだろうか。
まさに、兵どもが夢の跡・・・である。
つづく



